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「abさんご」はクイズ本だと思って読み進めると良いかもしれません

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ボクが放送作家として関わっている番組のゲストとして

史上最高齢75歳での受賞で話題の芥川賞作家

黒田夏子さんが出演された。

受賞作品の「abさんご」は

文藝春秋から出版され、発売から1週間で

累計発行部数14万部のベストセラーとなっている。

 

ところが、「1ページ目で読むのを止めてしまった」

という方がボクの周りで何人か居た。

実際に売れた単行本の何割かが

読まれまいまま本棚に置かれたままになる可能性がある。

それはとても勿体ないことだ。

 

そこでボクは、

できるだけ多くの方に読み切ってもらうため

abさんご」を

「クイズ本」として楽しんではどうですか?

という提案をしている。


ちなみに、このブログ記事をポストして以降、

abさんご」「読み方」という検索で

このブログを読む方が増えた。


ベストセラー小説の「読み方」を知りたくて検索

する人が多いというのは珍しいことだ。

みんな「読み方」に迷っているのだ。


だからこそ

abさんご」=「クイズ本」という提案は

「副読本」の役割を担ってくれるハズだ。

 

 

さて、本題。

「abさんご」の「読み方」。

ポイントは3つある

1)声に出して読む

2)ペンを持って文章に直接書き込みをしながら読む

3)クイズ本として楽しむ

 

 

1)【声に出して読む】

2)【ペンを持って書き込みしながら読む】

この作品は、漢字を極力使わず、

横書きで綴られた小説だ。

また、固有名詞、「私」「彼」などの人称代名詞を

一切使っていない。

ページを開くと一目瞭然だが、やたらと平仮名が多い。

 

ボクは職業柄、

「ななめ読み」「飛ばし読み」をすることが多い。

その場合のコツは漢字だけを拾って行くコトだ。

漢字はそれだけで相当な情報量を持っているので

それを追って行くだけでおおよそ、

その本の概要がつかめる。


ところが「abさんご」は平仮名が多用されているので

「意味を追う」という作業ができない。


例えば

「部屋の中の部屋」という文章があるのだが。。。

これを「abさんご」では「へやの中のへや」と表記する。

こうなると、

目で追っているだけだと意味が頭に入って来ない。

 

そこで、国語の授業のように

声に出して読んでみることをオススメする。

ボクも実際、自宅で音読しながら読み進めて行った。

すると、音の響きとして

「ああ、これは漢字の“部屋”のことを指しているのだな」と

理解できてくる。


さらに、黒田節ともいえる、文章の流れのようなものも

感じることさえできるのだ。

「ああ、きっと、黒田さんは、

こういう文章の響きがお好きなのではないか?」と。

 

 

「へや」=「部屋」のように、音読して得た発見は随時、

書き込んでいく。別に誰に見せるワケでもないから、

「へやの中のへや」という文章に

「/へや/の中の/へや/」と区切りを付けて

自分だけに分かる印を書き込んでいけば良いのだ。

 

これでだいぶ

「何が書いてあるか」を理解できるようになるのだが…

それだけで終わらないのが「abさんご」である。

 

3)【クイズ本として楽しむ】

この作品は、ひとつの物語にまつわる

短い作品が連なる「短編集」の体裁を取っている。

1、2の手法を使いながら読み進めたボクは、

真ん中くらいにある短編「やわらかい檻」で、

ようやく黒田文体のルールを

おぼろげながら掴んだ感触を得るのだ。

 

これから、

〈やわらかい檻〉という短編に書かれている、

ある一文を紹介します。

それが何のことか?みなさんに推理していただきたい。

 

『へやの中のへやのようなやわらかい檻は、かゆみをもたらす小虫の飛来からねむりをまもるために、寝どこ二つがちょうどおさまる大きさで四すみをひもでつられた』

 

さて・・・おわかりになったでしょうか?

正解は・・・「蚊帳(かや)」

ちなみに、上記一文の中にある

「かゆみをもたらす小虫」とは

「蚊(か)」のことを指している。

 

 

これはまさに、『「abさんご」的クイズ』である。

この面白さを発見すると、俄然、

読み進めるのが面白くなってくるワケだ。

「これは・・・

 名詞で言うところの何を表現しているのだろう?」

 

そうやって、積極的に黒田さん独特の文体に関わって行くと

だんだんと、「物語」が浮かんで来る。

abさんご」は昭和20年代ごろ4歳だった「私」が

片親を失った当時に遡り、

そこを起点に10代、20代の記憶を辿り

やがてもうひとりの親の最期を病室で看取るという物語。

-

その物語自体はとてもオーソドックス。

なにかことさら、ドラマチックな仕掛けがあるワケでなく

とにかく執拗に、

当時の記憶を文字に定着させている「私」の

記憶の旅を追体験する、そんな物語なんですね。

なかには、お手伝いさんとの人間関係の微妙な気遣い、

煩わしさのようなものも描かれている。

このあたりの描写はコントのようでもあり

ボクは楽しく読ませてもらいました。


 

この作品は原稿用紙100枚ほど。

通常、このくらいのボリュームなら

1時間半もあれば読めるはずなのだが・・・

ボクはこの作品を読むのに5時間かかった。

途中、何度もため息をもらしながら。

つまり、とても読む側に体力を強いる作品なのだ。

 

でも、視点を変えると、こういう作品は

書く側である作家も、

相当に体力がないと書けないということでもある。

その意味では75歳の方がこの作品を書ききったという

その若さにも驚かされるワケです。

 

 

クイズとして楽しめる独特の文体は

黒田さんとしてちゃんと理屈が通っている。

例えば「蚊帳」について・・・

黒田さんから聞いたお話の主旨を要約すると

以下の通りだ。


「いまの若い人は蚊帳を知らない人もいるだろう。たしかに“蚊帳”と使うのは簡単だ。しかし、それでは、蚊帳を知らない読者は置いて行かれる。でも、部屋の中の部屋という形で表現すれば、蚊帳を知らない人にも、どういう用途のものかを伝えることができる」


「別に蚊帳を、回りくどく説明したいからとか、時代を越えて伝えるために、そう書いているわけではない。へやの中のへやのようなやわらかい檻・・・というように、一文一文、自分が得た感覚、文字として残しておきたい風景を綴っている。その集合体として小説になっているワケで・・・物語も、便宜上、散文を作品としてまとめる際の道具として使っている。abさんごでいえば、親子というオーソドックスな人間関係に、お手伝いさんという第三者が割り込んでくるという構造が面白そうだから使っているが・・・物語そのものを伝えることが主眼ではないのです」

 

いかがでしょうか?

永く文学賞に応募せず、

自分の理想とする小説を追求した結果、

誕生した、まさに希有な作品。

一読する価値はあると思います。


でも、もう一度忠告しておきますが・・・

体力、要りますよ。



 

※実際にお会いした黒田さんは

 やはりとても若々しく、謙虚でいらして。。。同時に、

 作品に対する揺るぎない考えをお持ちであることが分かり

 あらためて黒田さんの魅力を感じました。

※ちなみに。。。趣味は「歌舞伎鑑賞」だそうですよ。

 

※この話題について、別番組で私がプレゼンターとなって

 お話することになりました。別に「abさんご」の宣伝マンでも何でもないですが

 このユニークな読書体験を伝える役割をまっとうしたいと思います。

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